ダウンカレントとは?流れの発生要因と対処法を紹介
更新日:2023.12.07.Thu   投稿日:2023.09.30.Sat「ダウンカレント」と言う言葉を聞いたことはありますか?
スキューバダイビングは楽しい反面、常に事故やトラブルと隣り合わせのスポーツです。何事も起きないことが大前提ではありますが、それでも万が一の時のために日ごろから知識と情報を意識して集めておくことは、ダイバーとして必要な「準備」だと考えます。
ダイビングは海の深くまで潜ることができ、魚と触れ合ったり、海の景色を楽しんだりと非日常という体験を与えてくれます。この魅力に惹かれて毎年ダイビングを楽しんでいるという方も多いのではないでしょうか。
これからも安全にダイビングを楽しむために、特に気を付けなければいけないのが「ダウンカレント」です。ダウンカレントとは、深い海底に向かう沈み込む流れのこと。この現象の発生原因や危険性を理解して気を付けながら潜るようにしましょう。
ダウンカレントとは?
まずは、ダウンカレントとはどのような現象のことなのか、また発生要因について説明します。
ダウンカレントとはどのような現象?
ダウンカレントとは、「深い海底に向かって沈み込む流れ」のことを言います。海には、一方向に連続して流れる海流や潮の満ち引きによって発生する潮流、岩や根など地形が作り出す流れなど様々な海流があります。
ダウンカレントは、岩礁などがある場所やドロップオフのポイントなどで、浅瀬から深い海底に引き込まれる海流の現象です。この沈み込む“流れ”をダウンカレントと呼びます。(逆に、深い場所から浅瀬へ向かって起きる海流を、アップカレントと呼びます)
ダウンカレントの発生要因
ダウンカレントの発生要因はいくつかありますが、その中でも代表的な2種類を紹介します。どちらも常に各地で発生しているため、特に外洋のポイントや地形ポイントへ行く際は、ダイバーの皆様は注意が必要です。
(1)流れが瀬を乗り越えるタイプ
大きな根や岩などがあるポイントでは、定期的に流れる海流がこれらにあたり、下から上がってくるアップカレントが発生します。そうなると、狭いところ(瀬の上部)に勢いよく流れ込んだ海流が、瀬(沖合いで海底が隆起し浅くなっている場所)を乗り越えたタイミングで勢いよく放出されるため、前面と下(深場)へ向かう強い流れが発生します。
特に、流れを利用してダイビングを楽しむドリフトダイビングをするようなポイントでは、アップカレントもダウンカレントも発生しやすい条件がそろっていることが多いです。これらのポイントは、上層では想像以上に流される恐れがありますし、下層ではそのまま一気に深場まで引き込まれてしまう危険性があるので注意が必要です。
(2)暖水塊に冷水塊がぶつかるタイプ
前記した発生原因とは別に、瀬の周辺に水温の高い水と低い水がぶつかった際に発生するダウンカレントもあります。冷たい海水は、温かい海水の下に潜り込む性質があります。これにより、瀬の上層に滞留する温かい海水に、密度と比重が違う外洋からやってくる冷たい海水がぶつかり、冷たい海水が下に行く力でダウンカレントが発生します。発生頻度はそれほど多くはありませんが、潮目や渦が見えた際は注意が必要です。
ダウンカレントに巻き込まれるとどうなるの?
ダウンカレントに巻き込まれた場合は、どうなってしまうのでしょうか。ここまで説明した通り、ダウンカレントとは下に向かう強い力です。普段はゆっくりと潜降しますが、ダウンカレントに巻き込まれると危険を伴うスピードで降下していきます。ダウンカレントは、ダイビングライセンス取得講習等でよく耳にする単語ですが“命の危険を伴う事象”です。これまで起きた事例をいくつかご紹介します。
ダウンカレントにつかまり気づけば-40m超
【参照記事】https://marinediving.com/safety_diving/stop_accidents/case11/
ポイント:外洋に面したドロップオフ
特徴:潮の流れが非常に速いところとして有名な場所で、ガイドからダウンカレントが発生する場所だとの注意もあった
状況と内容:写真に夢中になってしまい、気が付かないうちにダウンカレントに巻き込まれ、気が付いたときには水深45mまで連れてかれていた。泳いで上がろうとしたが、下向きの流れが強く全く浮上することができない。最終的には、壁沿いをロッククライミング方式で登っていき、水深18mのところまで戻りガイドと合流することができた。エアーの残りも少なくなっていたため、止む無く安全停止もそこそこにエキジットすることとなった。
対処方法:事前にガイドからの注意喚起があったにもかかわらず、リスクの高い場所で写真撮影に集中するのは危険です。常にガイドと同じ深度に居て、ガイドから自分が見える位置、自分からガイドが見える位置にいましょう。それでも、ガイドごとダウンカレントにはまってしまうこともあり得ます。そんな時は、今いる場所よりも少し横にずれてみることで、流れを回避して浮上することが可能になることもあります。(広範囲のダウンカレントではない場合に限る)ダウンカレントは、上層部から下層部へ流れる海流なので、左右に数メートル移動するだけで流れが無いことも。吐いた泡が停滞している状態(上から下への力がかかっている状態)を察知したら、その場から左右に移動してみましょう。
初めてダウンカレントに遭遇
【参照記事】https://thearound30.com/divingtroble2/#toc13
ポイント:水深10m程の場所
特徴:周辺には何もないエリア
状況と内容:約水深10mの周りに何もない場所を移動していたところ、耳の違和感から深度の変化を察知。ダイビングコンピューターを見ると、水深22mの深さまで来ており吐いた泡も目の前に停滞。一瞬、ガイドやバディの姿も見失いパニック寸前になってしまったが、ガイドの適切な指示によりBCDと強いフィンキックを使って浮上。しかし、ダウンカレントを抜けた瞬間に急浮上してしまい、安全停止ができず危険なダイビングとなってしまった。
対処方法:近くに瀬があったかどうかは不明ですが、予期せぬ場所でダウンカレントが起きることもあり得ます。この事例では、ガイドがBCDに空気を入れるように指示し、最大まで空気を入れても上がれず、更に全力でキックをすることで何とか浮上。しかし、ダウンカレントを抜けたところで急浮上へつながってしまいました。耳抜きが苦手な方は1m深度が下がっただけでも違和感に気が付くかもしれませんが、つばを飲み込んだり何もしなくとも耳が抜ける体質だったりする方は、特に要注意です。中層や指標物の無い場所を泳がなければいけない際は、常に身体の前でダイビングコンピューターを見ながら少しの深度変化にも対応できるようにしておきましょう。
命を左右するダウンカレント
【参照記事】https://luckdragon2009.hatenablog.com/entry/20100622/1277150600
ポイント:外洋に面したドリフトポイント
特徴:常に流れが発生している
状況と内容:安全停止をするため深度をあげようとした時に、逆に下へ自分たちが下がっていることに気がつく。即座に、チームメンバー全員で集まり、はぐれないようにお互いをしっかりと掴みあった。そして、少しずつBCDへ空気を入れてなんとかダウンカレントを抜けることができた。
対処方法:いつでも起きる可能性があるとしっかりと頭に刻み、自身のスキルや経験を過信せずにいることが大切です。常に「ダウンカレントがあるかもしれない」と思うことで、ちょっとした海中の変化に素早く対応することができるでしょう。それでも巻き込まれてしまった際は、チームメイトやバディと離れないようにお互いをホールドして、ダウンカレントを抜けた際に急浮上をしなくて済むよう、少しずつBCDへ空気を入れて上がること。また、左右に少し移動することなど対処方法を知っておきましょう。
ダウンカレントにおける対処法
ダイビングの経験が上がっていくと、ダウンカレントが起こりうる可能性が高い海へ行く機会もあるでしょう。「ガイドやインストラクターと一緒だから大丈夫。何かあったら守ってくれる」ではなく「自分の身は自分で守る、何なら仲間も守る」くらいの心持ちで、事前の対策や知識を持って挑むようにしましょう。これまでの事例を紹介する際にも記載しましたが、大きく分けると下記の二種類で覚えておいてください。
残圧に余裕がある場合
エアーに残圧がある場合には、岩礁につかまるなどして対策しましょう。中層に居続けると、更に下へ引っ張られてしまう可能性が高いです。自分が吐いた泡がどのように動いているかを観察して、上だけではなく左右へ移動することも考えましょう。
残圧に余裕がない場合
エアーの残圧がない場合には、浮力を確保してとにかく全体として浮上を目指しましょう。この時に、ダウンカレントを抜けたら一気に浮上してしまう可能性があることも理解して、排気ボタンを常に保持し、様子を見ながらコントロールします。
どちらの場合でも、まずは異常を仲間へ伝えて仲間と離れることを避けましょう。そのためにも、ベルやホーンなどの鳴り物はドリフトダイビングでは必須アイテムです。
ダウンカレントに巻き込まれないために
ガイドやそのダイビングスポットに詳しい人の話を聞く
船長や現地ガイドは、誰よりもポイントについて精通しているはずです。地形や特徴に詳しい方の注意事項をきちんと聞いて、しっかりと守るようにしましょう。
自分のいる位置を把握する
潜水中は、常に危険と隣り合わせです。写真を撮ったり魚を見たりと楽しむことも重要ですが、最優先は安全を守ること。どのような時でも、ガイドから離れないよう同じ水深とコースでいることを徹底しましょう。
ガイドと違う深度にいたり距離を取ってしまったりすることで、自分だけダウンカレントに巻き込まれてしまう可能性も生まれます。ガイドだけではなく、バディーや仲間と離れないように気を配りながらダイビングをするよう心がけましょう。
安全グッズを用意しておく
安全グッズを用意しておくことで、非常時にも対応できる体制を整えておくことができます。特に、外洋へ出るようなダイビングをする際は、ダイビングベルやホーン、指示棒(タンクを叩けば音が出る)、ホイッスルやフロートなどいざという時の安全グッズを持って行くようにしましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。これまで、ダウンカレントと言う現象について説明をしてきました。ダイビングはレジャーとして非常に人気があり、とても楽しい反面、常に事故やトラブルと隣り合わせです。事故を起こさないようにすることが大前提ですが、「絶対起きない」とは誰にも断言はできません。万が一のために、万全な準備をして挑むことが大切です。
今回ご紹介したのは、浅瀬から深場へ強い海流が起きる現象のダウンカレントです。ダウンカレントに巻き込まれると、知らないうちに深くまで流されてしまい、気が付いたときには仲間とはぐれて浮上すらできない事態に・・・。安全グッズを持ち歩いたり、現地のスタッフや人々に注意事項を確認したりして、対策を知ってからダイビングをするようにしましょう。
世界中で人気のあるドリフトダイビングは、ジンベエザメやマンタ、ハンマーヘッドシャークの群れを見ることができる魅力的なダイビングです。引き続き安全で楽しいダイビングをするためにも、ダウンカレントについて周りの仲間たちとも共有し知識をつけておくことをおすすめします。